読者の感想
●投稿「匿名医師たちの正体」 ルポライター米本和広
2009.12.24
サイトのアクセス件数が99000を突破し、いよいよ10万件に近づいてきました。サイト制作者の地道な努力に敬意を表します。失礼ながら、「全国区」でなく1地方の1公立病院に対象を絞ったサイトなのに、ここまで読まれているのは、少々、驚きです。
以前、「20代の医師」さんが、「清水病院の被害をなくす会は『被害をなくす会』ではなく『病院をなくす会』と言われている」といった趣旨のことを書いていましたが、被害をなくす会とサイトの影響力を無視できなくなってきたから、そのような噂を流している人たちがいるということなのでしょう。
こうした低レベルなことはごくごく一部のことかと思っていましたが、2009年の11月24日付の東京新聞、『ネットで暴走する医師』の記事を読んで、「病院をなくす会だと話題にしている人たちも、同じ手合いの連中か」と納得した次第です。
(http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2009112402000062.html)
この記事は著作権を重視しているらしく、全文は引用できませんが、要旨は以下の通りです。
(1) 医療事故で患者側に損害賠償請求を認めた事例に対して、「医師専用の掲示板や複数の『医師ブログ』と呼ばれる『医師を称する匿名者によるサイト』で、誹謗中傷の投稿が相次いでいる。
(2) 誹謗中傷よりも悪質なのは、事実を捏造して、患者側の主張が間違いであると批判していることにある。事実の捏造がいかにもリアリティがあるように行われており、また匿名といえども医師の投稿ゆえに、サイトの読者が捏造された事実(デマ)を真実と思い込むため、匿名サイトの影響力は無視できないほどになっている。
(3) それは、具体的には以下の通りである。
<04年に福島県大熊町の県立大野病院で手術中に亡くなった妊婦の担当医が、業務上過失致死罪などに問われる事件があった。福島地裁は昨年8月に担当医を無罪としたが、この女性と遺族に対する攻撃も激しかった。
「遺族は知り合いの政治家に頼んで警察を動かした」
「亡くなった女性は2人目を産むなといわれていた」
いずれもデマ。それを匿名で流すことがそもそも問題だが、深刻なのは伝聞、引用が繰り返されるうちに、デマが信憑性を帯びてしまうことだ>
匿名の「20代医師」さんは、会のサイトにある医療事故一覧に載っているケースは、医療事故ではなく合併症によるものだと、まったく根拠を示すことなく、執拗に書いていた。会の事務局によれば、別のやはり匿名医からも、20代医師さんの主張に合わせるかのように、「医療事故や医療過誤ではなく、合併症だ」というメールが何回も届いていたそうだ。
清水病院や訴えられた医師がそのように主張するのであれば、理解できなくもない。しかし、2人の匿名医(20代医師や別の匿名医師)は医療事故に関係する人たちではなく、いわば外野席の人たちである。それなのに、どうして根拠を示すことなく合併症のことを投稿で取り上げるのか理解できないでいた。
その疑問が、東京新聞を読んで氷解したような気分になった。おそらく、医師の匿名サイトで、訴えられた清水病院の医師は医療事故を起こしたのではなく、不可抗力の合併症を医療事故として問題にされたのだと、リアリティを感じさせるような、合併症を裏付ける捏造した事実を、誰かが(あるいは複数の匿名医が)書きつらねたのではないかと思うのだ。
リアリティを感じさせるような捏造された事実とは。
東京新聞に載ったもう一つの例を紹介しておく。
救急外来の男性が急性心筋梗塞を疑われながらも、当直医が高次の救急病院への転送要請を70分間行わずに、男性は死亡。遺族は提訴し、裁判では「転送義務違反」が争われた。判決は遺族側の勝訴だった。
これについて「匿名掲示板」や「医師ブログ」では、以下のようなまことしやかなことが投稿された。
「内部情報によると、当直医は5つの近隣病院に次々に転送要請をしたが、断られ続け、最初に断られた病院にもう一度転送要請し、ようやく受け入れてもらった」(そんな事実はカルテにも、当直医の証言にもなかった)
このデマ情報を真実だと思い込み、匿名医たちは次々と投稿した。
「こんなことでは、救急医療を続けることはできない」
「運悪く転送先が見つからなければ、その医師は有罪が確定する」
これと同じようなことが、会の「医療事故一覧」に載ったケースでも、「内部情報によると、これこれこんな事実があり、医療事故ではなくたんなる合併症だった」と、デマ情報が流され、それを真に受けた匿名医師たちが「合併症なのに医療事故扱いされるようでは、もう医師を続けることはできない」とか「合併症なのに医療事故扱いするような会は、『病院から被害をなくす会』ではなく、『病院をなくす会』だ」といった投稿が相次いだことがあったのではないか。
それを読んだ匿名医が、勇敢にも、会の投稿欄にそのことを書きつらねてきた。
そのようにしか考えられないのである。
東京新聞は、医療裁判の患者側を批判する匿名医の主張には共通点があるとして、医療社会学が専門の栗岡幹英奈良女子大教授のコメントを引用している。
「患者側が誤解に基づき簡単に訴訟を起こす。それで医療不信が増大。勤務医は疲弊して病院から離れ、医療が崩壊する」−という考え方だという。
事実に反するような主張(一例をあげれば訴訟を起こすのは簡単ではないし、患者側に誤解があれば弁護士はそれを正す)をする背景には、「20代医師」さんが投稿していたように、勤務医の長時間労働、それに見合う報酬がないという不満があると思う。
その不満を、実名ではなく匿名で患者側のサイトに、超多忙なはずなのにぶつける。だから、私はそうした医師たちをルサンチマン医師と命名した。
今から20年以上も前に、東大進学率ナンバーワンだった開成中学の生徒たちの、「将来、何になりたいか」というアンケート調査を読んだことがある。
ベスト3は「社長」「医師」「弁護士」だった(順不同)。
医師と同じように超多忙な弁護士や社長は、匿名で、顧客に関するデマ情報を流したり、デマ情報に基づいて投稿したりしない。子どもたちにとって憧れの医師だけが匿名・投稿をしているのだ。それも、新聞が取り上げざるをえないほどの規模で。
医療を向上させるのは医療関係者の仕事であり、ときに患者側の意見を求める必要も出てくるだろう。しかし、患者側それも医療訴訟を起こさざるを得なかった被害者のサイトの批判をしたり、サイトに匿名で中傷投稿したりすることは、医療の向上にはまったく結びつかず、逆に、医療不信、医師不信を招くだけである。
こんなことを書いても、匿名医師たちの心には届かないのかもしれない。せめてお願いしたいのは、社会的地位の高い医師なのだから、患者側を批判する場合、匿名ではなく、実名で行ってもらいたいということだ。これ以上、子どもたちの夢(人の命を救う仕事)を壊さないようにしてもらいたい。
追伸:この投稿に対する匿名の反論はお断りします。
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