男声合唱の夕べ(2)(多田武彦作品@)
男声合唱の夕べ 目次 (1)愛唱歌より その1からその7 (2)多田武彦作品@ その1、その2、その3 (3)多田武彦作品A その4、その5 (4)静大グリークラブの思い出、なまずの孫のこと (5)多田武彦作品B その6、その7、その8 (6)多田武彦作品C その9、その10、その11 |
多田武彦作品@
その1 柳河風俗詩 その2 雪と花火 その3 父のいる庭 |
北原白秋 作詩 | |
T 柳河 もうし もうし 柳河じゃ 柳河じゃ 欄干橋を見やしゃんせ 見やしゃんせ 赤い夕日に手をかざす)
人も住まわぬ
裏のBANCOに居る人は 水に映った そのそのかげは 母の形見の小手鞠を 赤い毛糸で くくるのじゃ 涙片手に くくるのじゃ 赤い毛糸で くくるのじゃ 涙片手に くくるのじゃ
もうし もうし 旅のひと 旅のひと あれ あの三味をきかしゃんせ ( 赤い夕日の街に入る)
夕焼け 小焼け あした天気になあれ
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U 紺屋のおろく にくいあん畜生は 紺屋のおろく 猫を 知らぬ顔して しゃなしゃなと
にくいあん畜生は 筑前しぼり 金の指輪も ちらちらと
にくいあん畜生が 薄情な眼つき 博多帯しめ からころと
にくいあん畜生と 赤い夕日に ふとつまされて ホンニ ホンニ
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V かきつばた 柳河の 古き流れの かきつばた 昼はONGOの手にかおり 夜は 細い吐息に 泣きあかす
柳河の 古き流れの かきつばた 昼はONGOの手にかおり 夜は 細い吐息に 泣きあかす
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W 梅雨の晴れ間 廻せ 廻せ 水ぐるま 廻せ 廻せ 水ぐるま 足どりかろく 手もかろく 花道の下 水ぐるま
廻せ 廻せ 水ぐるま 雨に濡れたる古むしろ 青い空 化粧部屋にも笑うなり
廻せ 廻せ 水ぐるま 梅雨の晴れ間の一日を せめて楽しく浮かれよと 廻り舞台も滑るなり 水を汲み出せ その下の
廻せ 廻せ 水ぐるま だんだら幕の黒と赤 すこしかかげて なつかしく 田舎芝居の
廻せ 廻せ 水ぐるま 廻せ 廻せ 水ぐるま はやも昼から 足どりかろく 手もかろく 花道の下 水ぐるま
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北原白秋 作詩 | |
T 片恋 あかしやの 金と赤とが ちるぞえな あかしやの 金と赤とが ちるぞえな か あかしやの 金と赤とが ちるぞえな あかしやの 金と赤とが ちるぞえな か
片恋の 薄着のねるの わがうれ 曳船の 水のほとりを ゆくころを 曳船の 水のほとりを ゆくころを やわらかな 君が吐息の ちるぞえな やわらかな 君が吐息の ちるぞえな あかしやの 金と赤とが ちるぞえな ちるぞえな
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U 彼岸花 憎い男の心臓を 憎い男の心臓を 針で それは
昼寝のあとに ハットして きょうも驚くわが疲れ 昼寝のあとに ハットして きょうも驚くわが疲れ
憎い男の心臓を 針で もしや棄てたらきっとまた もしや棄てたらきっとまた きっとまた
彼岸花 蛇がからめば 身が細る
赤い 彼岸花 午後の三時の鐘が鳴る
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V ひとが泣 なんのその葉が知るものぞ なんのその葉が知るものぞ 知るものぞ
わたしはわたし なんのゆかりもないものを
わたしはわたし なんのゆかりもないものを
わたしはわたし 芥 なんのなんのゆかりもないものを
ひとが泣 なんのその葉が知るものぞ なんのその葉が知るものぞ
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W 花火 花火があがる パッとしだれて ちりかかる ほんに ゆかしい 舟のけしきに ちりかかる ちりかかる
花火が消ゆる 紅くとろけて ちりかかる Toron… Tonton… Toron… Tonton… 両国橋の水と空とに ちりかかる
花火があがる 薄い光と汐風に 涙しとしと ちりかかる 歌のこころに ちりかかる つんと澄ませど あのように 舟のへさきに ちりかかる
花火があがる 銀と緑の パッとかなしく ちりかかる 夏の帽子に ちりかかる アイスクリームひえびえと ふくむ手つきに ちりかかる わかいこころの
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津村信夫 作詩 | |
T 父が庭にいる歌 父を あの冬の寒さが また 私に還ってくる
父の書斎を片づけて 大きな写真を飾った 兄と二人で 父の遺物を 洋服を分けあったが そのままにして置いた 在りし日 好んで植えた椿の幾株が あえなくなった いつまでも残っている
そう言って話す兄の声に 私ははっとする程だ 父の声だ そっくり父の声が話している 私が驚くと 兄も驚いて 私の顔を見る
暖炉の中でも鳴っている
言い合わせたように 私達兄弟は庭の方に目をやる (そうだ いつもこの時刻だった)
あの年の冬の寒さが 今 庭の落葉を静かに踏んでくる
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U 太郎 妻のお 太郎と呼ぶ子供がいる そいつが近頃では 夜になると 手をのばし足をひろげたりする 太郎と呼ぶ子供がいる そいつが近頃では 夜になると 手をのばし足をひろげたりする 妻は とき折寝床の上に坐り直す ぼんやり考えている すると俺も思案を始める 日本の美しい子供の伝説には 腹掛をした裸の少年がいる 裸の子供はいくら 誰かが可愛がってくれるだろう 太郎太郎 腹の中の太郎 お前の生れるのは 五月にほど近い日だ 青葉になった梅の木のもとで お前のお前の 夢を夢を一杯みたした 妻のお 太郎と呼ぶ子供がいる
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V 早春 浅い春が 好きだった 死んだ父の 口癖の そんな季節の 訪れが 私に 近頃では 早く来る ひと月ばかり 早く来る
さし覗く 私の膝に とろとろ燃えている 山には 雪がまだ消えない 花瓶にさす
生暖かな ああこれが「生」というものか ふっと 私の頬に触れる 夕べの庭に ゆう煙 今日も しきりと 思われる
浅い春が 好きだった 死んだ父の 口癖の そんな季節の 訪れが 私に 近頃では 早く来る ひと月ばかり 早く来る
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W 紀の国 「紀の国ぞ はや 湊につきたり」 「紀の国ぞ はや 湊につきたり」
舟のおじ かたみに呼びかけ 舟のおじ かたみに呼びかけ うっとりと 父に手をひかれし心地
犬の先曳く車もあれば その枝のたわわなる下 かいくぐり かいくぐりゆく
うっとりと 父に手をひかれし心地
犬の先曳く車もあれば 海の その枝のたわわなる下 かいくぐり かいくぐりゆく
「紀の国ぞ あらぶる海の国ぞ 今日の日も想う そが小さき者の 夢にも通え そが小さき者の 夢にも通え あらぶる海の国は あらぶる海の国は わがためには父の国 ゆずり葉のみどりの国ぞと 紀の国ぞ あらぶる海の国ぞ 紀の国ぞ
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