男声合唱の夕べ(3)(多田武彦作品A)

 男声合唱の夕べ 目次

  (1)愛唱歌より                   その1からその7

  (2)多田武彦作品@               その1、その2、その3

  (3)多田武彦作品A               その4、その5

  (4)静大グリークラブの思い出、なまずの孫のこと

  (5)多田武彦作品B               その6、その7、その8

  (6)多田武彦作品C               その9、その10、その11

     多田武彦作品A

  その4  三崎のうた    

  その5  木下杢太郎の詩から

 

中勘助文学記念館内の杓子庵

静岡市新間 04-05-26訪問

    以上の5作品以外に

  富士山 (草野 心平)

  中勘助の詩から (中  勘助)

  雪明りの路 (伊藤  整)

  雨 (伊藤 整、大木惇夫、堀口大学)

  草野心平の詩から (草野 心平)

  を愛唱したのだが、

  著作権の関係で掲載できなかった。

(↑上記作品の歌詞を2018年より、徐々に掲載することにしました。)

 著作権メモ:権利者の死後50年で消滅

 八木 重吉   生年:1898-02-09 没年:1927-10-26

 北原 白秋   生年:1885-01-25 没年:1942-11-02

 津村 信夫   生年:1909-01-05 没年:1944-06-27

 木下 杢太郎  生年:1885-08-01 没年:1945-10-15

 中  勘助   生年:1885-05-22 没年:1965-05-03

 伊藤  整       生年:1905-01-16 没年:1969-11-15

 大木 惇夫       生年:1895-04-18 没年:1977-07-19

 堀口 大学       生年:1892-01-08 没年:1981-03-15 

 草野 心平       生年:1903-05-12 没年:1988-11-12

 

その4  三崎のうた    

    ※注1 1975年の静大グリー第9回定演当時は下記のT〜Wまでの4曲編成であったが、

          後年 V 海雀が追加された。

          参照⇒ 〔タダタケ〕データベース 「三崎のうた」〔改訂版〕

                                                                北原白秋 作詩

   T 丘の三角畑

鍬打つ、鍬打つ、

裸で鍬打つ、

空は円天井(まるてんじょう)

地面(じべた)は三角、

光は薔薇いろ、藍いろ、利休茶。

 

鍬打つ、鍬打つ、

並んで鍬打つ。

とべらの木は山形。

反射(てりかえし)は三角。

光は銀いろ、薔薇いろ、灰いろ。

 

鍬打つ、鍬打つ、

離れて、彼方此方(あちこち)

黙って鍬打つ、

黙って鍬打つ、

向うにライ麦、こちらに人参。
 
光は利休茶、緑に、金色(こんじき)

 

鍬打つ、鍬打つ、

うしろむきに鍬打つ、

一心に鍬打つ、

打たずにゃいられぬ。

とべらの木の周囲(まわり)を 廻って鍬打つ。

光は薔薇いろ、空いろ、利休茶。

光は薔薇いろ、空いろ、利休茶。

 

鍬打つ、鍬打つ、

近寄って鍬打つ、

キラキラするのは 巡査のサアベル、

畑の上では蒸気が旗振る。

光は薔薇いろ、湾内(わんない)真青(まっさお)

 

鍬打つ、鍬打つ、

振り返って鍬打つ、

とべらの木の下では あかんぼがすやすや、

(にわとり)がコケッコッコ。

(にわとり)がコケッコッコ。

光は薔薇いろ、藍いろ、利休茶。

 

鍬打つ、鍬打つ、

向きあって鍬打つ、

拝んで、鍬打つ、

拝んで、鍬打つ、

打たずにゃいられぬ、(しん)から鍬打つ。

光は薔薇いろ、向日葵(ひぐるま)金色(こんじき)



ぎゃあと あかんぼが()き出した。

 

     
   U 白南風(しろばえ)黒南風(くろばえ)

小焼夕焼

(かざ)ぐるま。

明日(あす)日和(ひより)

(かざ)ぐるま。

せめてたよりを待ちましょか。

風が吹きます白南風(しろばえ)が。



小焼、朝焼

(かざ)ぐるま。

明日(あす)はあらしか

(かざ)ぐるま。

どうで、たよりも片だより。

風が吹きます黒南風(くろばえ)が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 


   V 雨中小景

雨はふる、ふる雨の霞がくれに

ひとすじの(けぶり)立つ、(たれ)生活(たつき)ぞ、

銀鼠(ぎんねず)にからみゆく古代紫(こだいむらさき)

その空に城ヶ島近く横たふ(とう)



なべてみな(あだ)なりや、海の(おもて)

輪をかくは輪をかくは水脈(みお)のすじ、あるは離れて

しみじみと泣きわかれゆく、

その上にあるかなきふる雨の(あし)

 

遥かなる岬には波もしぶけど、

絹漉(きぬごし)の雨の(うち)蜑小舟(あまおぶね)ゆたにたゆたふ(とう)

(さお)あげてかじめ採りいる

北斎の蓑と笠、中にかすみて

一心に網うつは(やすら)からぬけふ日(きょうび)の惑()

 

さるにてもうれしきは浮世なりけり。

雨の(うち)をりをり(おりおり)に雲を透かして

さ緑に投げかくる金の光は

また雨に忍び入る。()には刻めど、

絶えて影せぬ鶺鴒(せきれい)のこ()をたよりに。

 

雨はふる、ふる雨の霞がくれに

ひとすじの(けぶり)立つ、(たれ)生活(たつき)ぞ、

銀鼠(ぎんねず)にからみゆく古代紫(こだいむらさき)

その空に城ヶ島近く横た()

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


   W 鮪組(まぐろぐみ)

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。

南風(はえ)だ、船出だ、

鮪漁(まぐろりょう)だ、組だ。

 

ただこの意気だぞ、

裸でやっつけ。

 

今に(まぐろ)

富士の山。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。


一度(うち)を出りゃ、

女房、子もあろか。

 

ただこの意気だぞ、

早艪(はやろ)ですっ飛べ。

 

意気は三崎の

鮪組(まぐろぐみ)

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。



しけよ、時化(しけ)の風、

どんと吹いてござれ。

 

ただこの意気だぞ、

三崎の若衆(わかしゅ)だ。



腕に筋金(すじがね)

赤ふどし。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。



(しお)だ、早瀬だ

そりゃこそ、(まぐろ)

 

ただこの意気だぞ。

占めたぞ、追っかけ。



海は(いわし)

雪なだれ。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。



風は南風(はえ)のかぜ、

八挺艪(はっちょうろ)艪風(ろかぜ)

 

ただこの意気だぞ

一気にやっつけ。

 

灘は相模灘、

初鮪(はつまぐろ)

 

漕いで漕いで漕いで、

北條(ほうじょう)の入江。

 

ただこの意気だぞ。

見えたぞ、(あかり)だ。

 

晩にゃ、大漁の、

酒宴(さかもり)

 

 

その5  木下杢太郎の詩から

    ※注2 1977年の静大グリー第11回定演当時は下記のT〜Wまでの4曲編成であったが、

          後年 V 柑子が追加された。

          参照⇒ 〔タダタケ〕データベース 「木下杢太郎の詩から」〔改訂版〕  

                                                        木下杢太郎 作詩
   
T 兩國 (りょうごく)

やあれそれやあれそれやあれそれ

兩國(りょうごく)の橋の下へかかりゃ

大船(おおぶね)(はしら)を倒すよ、

やあれそれ船頭が懸聲(かけごえ)をするよ。

兩國(りょうごく)の橋の下へかかりゃ

大船(おおぶね)(はしら)を倒すよ、

やあれそれ船頭が懸聲(かけごえ)をするよ。

五月五日のし()とりと

肌に(つめた)(かわ)の風、

四ツ目から()る早船の緩かな艪拍子(ろびょうし)や、

牡丹(ぼたん)を染めた半纏(はんてん)蝶蝶(ちょうちょう)が波にもまるる。

 

灘の美酒、菊正宗、

薄玻璃(うすばり)(さかずき)へなつかしい()を盛って

西洋料理舗(レストラント)の二階から

ぼんやりとした入日空(いりひぞら)

夢の國技館(こくぎかん)(まる)屋根こえて

遠く飛ぶ鳥の、夕鳥の影を見れば

なぜか心のなぜか心のみだるる。

 


   U こ()ろぎ

()ろこ()ろと鳴く(むし)

秋の夜のさびしさよ。

日ごろわすれし(うれい)さへ(さえ)

思い出さるるはかなさに

袋戸棚かきさがし、

箱の(ちり)はら()落して、

(さお)もついて見たれども、

()れ思()ば、隣の人もきくやら()
 
つたなき音は立てじとて、その(まま)におく。

月はいよいよ()えわたり

悲みいとど加()んぬ。

(ひる)はかくれて夜は鳴く

蟋蟀(こおろぎ)(むし)のあ()れさよ、

しばしとぎれてまた低く

()ろこ()ろと夜もすがら。



 

 

 



   V 雪中の葬列

Djian……born……laarr……don

Djian……born……laar,r,r……

鐘の音がする。雪の降る日。

雪はちらちらと降っては積る。

中をま()黒な一列の人力車。

そのあとに鐘が鳴る……

Djian……born……laar,r,r……

 

銀色とあの寂しい
  
薄紅(うすあか)と、(はす)花瓣(はなびら)……ゆれながら運ばれて行く、

放鳥籠(ほうちょうかご)の鳥と。

銕橋(てっきょう)の上に進んだ。都會(とかい)眞中(まんなか)の――

華やかな叫びも欲もさびれた雪の日の都會(とかい)の――。

黒い無言の一列がひ()そりと、ひ()そりと……

 

鐘の音がする。雪の降る日。

 

雪は降る。雪は降る。

雪は降る。雪は降る。

Djian……born……laarr……don

Djian……born……laar,r,r……





 

 

 

 

   W 市場所見

沖の暗いのに白帆が見える、

あれは紀の(くに)蜜柑船(みかんぶね)

蜜柑(みかん)問屋(どんや)歳暮(くれ)の荷の

()く忙しさ――冬の日は

惨憺(さんたん)として(しも)曇る市場(いちば)の屋根を照したり。

 

街の柳もひつそりと枯葉を垂らし、

横町(よこちょう)の「下村(しもむら)」の店、

赤暖簾(あかのれん)さゆるぎもせず。

 

街角に男は立てり。

手を()げて指を動かし

「七番、中一(なかいち)あり」と呼びたれば
 
兜町(かぶとちょう)、現物店の門口に

丁稚(でっち)また「中一(なかいち)あり」と傳へ(つたえ)たり。

 

海運橋より眺むれば

雲にかくれし青き日は

陰惨として水底(みなぞこ)に重く沈みて(こえ)もなし。

時しもあれや蜜柑船(みかんぶね)

橋の下より(まか)りい()

そを見てあれば、すずろにも

昔の唄を思()()

 

あれは紀の(くに)蜜柑船(みかんぶね)

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