男声合唱の夕べ(3)(多田武彦作品A)

     多田武彦作品A

  その4  三崎のうた    

  その5  木下杢太郎の詩から    

 

中勘助文学記念館内の杓子庵

静岡市新間 04-05-26訪問

    以上の5作品以外に

  富士山 (草野 心平)

  中勘助の詩から (中  勘助)

  雪明りの路 (伊藤  整)

  雨 (伊藤 整、大木惇夫、堀口大学)

  草野心平の詩から (草野 心平)

  を愛唱したのだが、

  著作権の関係で掲載できなかった。

 著作権メモ:権利者の死後50年で消滅

 八木 重吉   生年:1898-02-09 没年:1927-10-26

 北原 白秋   生年:1885-01-25 没年:1942-11-02

 津村 信夫   生年:1909-01-05 没年:1944-06-27

 木下 杢太郎  生年:1885-08-01 没年:1945-10-15

 中  勘助      (1885-1965)

 伊藤  整       (1905-1969)

 大木 惇夫     (1895-1977)

 堀口 大学     (1892-1981)  

 草野 心平     (1903-1988)

 

その4  三崎のうた    

    ※注1 1975年の静大グリー第9回定演当時は下記のT〜Wまでの4曲編成であったが、

          後年 V 海雀が追加された。

          参照⇒ http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Theater/1957/sakuhindata/misakino.html

                                                                北原白秋 作詩

   T  丘の三角畑

鍬打つ、鍬打つ、

裸で鍬打つ、
   まるてんじょう
空は円天井、
 じべた
地面は三角、

光は薔薇いろ、藍いろ、利休茶。

 

鍬打つ、鍬打つ、

並んで鍬打つ。

とべらの木は山形。
  てりかえし
反射は三角。

光は銀いろ、薔薇いろ、灰いろ。

 

鍬打つ、鍬打つ、
      あちこち
離れて、彼方此方、

黙って鍬打つ、

黙って鍬打つ、

向うにライ麦、こちらに人参。
            こんじき 
光は利休茶、緑に、金色。

 

鍬打つ、鍬打つ、

うしろむきに鍬打つ、

一心に鍬打つ、

打たずにゃいられぬ。
         まわり
とべらの木の周囲を 廻って鍬打つ。

光は薔薇いろ、空いろ、利休茶。

光は薔薇いろ、空いろ、利休茶。

 

鍬打つ、鍬打つ、

近寄って鍬打つ、

キラキラするのは 巡査のサアベル、

畑の上では蒸気が旗振る。
         わんない  まっさお
光は薔薇いろ、湾内や真青。

 

鍬打つ、鍬打つ、

振り返って鍬打つ、

とべらの木の下では あかんぼがすやすや、
  にわとり
鶏がコケッコッコ。

鶏がコケッコッコ。

光は薔薇いろ、藍いろ、利休茶。

 

鍬打つ、鍬打つ、

向きあって鍬打つ、

拝んで、鍬打つ、

拝んで、鍬打つ、
             しん
打たずにゃいられぬ、心から鍬打つ。
          ひぐるま   こんじき
光は薔薇いろ、向日葵、金色。


             
ぎゃあと あかんぼが啼き出した。

 

       しらばえ  くろばえ      
   U  白南風黒南風
 こやけ ゆうやけ
小焼、夕焼、
  かざ
風ぐるま。
 あす    ひより
明日は日和か

風ぐるま。

せめてたよりを待ちましょか。
         しらばえ
風が吹きます白南風が。


           あさやけ
小焼、朝焼、

風ぐるま。

明日はあらしか

風ぐるま。

どうで、たよりも片だより。
         くろばえ
風が吹きます黒南風が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 


   V  雨中小景

雨はふる、ふる雨の霞がくれに
      けぶりた   たれ  たつき
ひとすじの煙立つ、誰が生活ぞ、
  ぎんねず          こだいむらさき
銀鼠にからみゆく古代紫、
               
その空に城ヶ島近く横たふ。


       あだ                  おもて
なべてみな空なりや、海の面に
               みお
輪をかくは輪をかくは水脈のすじ、あるは離れて

しみじみと泣きわかれゆく、
                  あし
その上にあるかなきふる雨の脚。

 

遥かなる岬には波もしぶけど、
  きぬごし     うち あまおぶね           と う
絹漉の雨の中、蜑小舟ゆたにたゆたふ。

棹あげてかじめ採りいる

北斎の蓑と笠、中にかすみて
         やすら      きょうび   まどい
一心に網うつは安からぬけふ日の惑ひ。

 

さるにてもうれしきは浮世なりけり。
   うち  お り お り
雨の中、をりをりに雲を透かして

さ緑に投げかくる金の光は
            
また雨に忍び入る。音には刻めど、
        せきれい    え
絶えて影せぬ鶺鴒のこゑをたよりに。

 

雨はふる、ふる雨の霞がくれに

ひとすじの煙立つ、誰が生活ぞ、

銀鼠にからみゆく古代紫、

その空に城ヶ島近く横たふ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      まぐろぐみ
   W  鮪組

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。
 はえ
南風だ、船出だ、
  まぐろりょう
鮪漁だ、組だ。

 

ただこの意気だぞ、

裸でやっつけ。

 

今に鮪の

富士の山。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。

   うち
一度家を出りゃ、

女房、子もあろか。

 

ただこの意気だぞ、
 はやろ
早艪ですっ飛べ。

 

意気は三崎の
  まぐろぐみ
鮪組。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。


      しけ
しけよ、時化の風、

どんと吹いてござれ。

 

ただこの意気だぞ、
     わかしゅ
三崎の若衆だ。


   すじがね
腕に筋金、

赤ふどし。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。


  しお
潮だ、早瀬だ

そりゃこそ、鮪。

 

ただこの意気だぞ。

占めたぞ、追っかけ。


   いわし
海は鰯の

雪なだれ。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。

えいそら、えいそら。えいそら、えいそら。


    はえ
風は南風のかぜ、
  はっちょうろ ろかぜ
八挺艪の艪風。

 

ただこの意気だぞ

一気にやっつけ。

 

灘は相模灘、

初鮪。

 

漕いで漕いで漕いで、
  ほうじょう
北條の入江。

 

ただこの意気だぞ。
      あかり
見えたぞ、燈だ。

 

晩にゃ、大漁の、
 さかもり
お酒宴。

 

 

その5  木下杢太郎の詩から

    ※注2 1977年の静大グリー第11回定演当時は下記のT〜Wまでの4曲編成であったが、

          後年 V 柑子が追加された。

          参照⇒ http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Theater/1957/sakuhindata/kinosita.html  

                                                        木下杢太郎 作詩
   りょうごく   
T  兩國

やあれそれやあれそれやあれそれ
 りょうごく
兩國の橋の下へかかりゃ
 おおぶね はしら 
大船は檣を倒すよ、
           かけごえ
やあれそれ船頭が懸聲をするよ。

兩國の橋の下へかかりゃ

大船は檣を倒すよ、

やあれそれ船頭が懸聲をするよ。
        
五月五日のしつとりと
   つめた かわ
肌に冷き河の風、
       く         ゆるや    ろ
四ツ目から來る早船の緩かな艪拍子や、
 ぼたん       はんてん ちょうちょう
牡丹を染めた半纏の蝶蝶が波にもまるる。

 

灘の美酒、菊正宗、
 うすばり さかずき                      か
薄玻璃の杯へなつかしい香を盛って
  レストラント
西洋料理舗の二階から
         いりひぞら
ぼんやりとした入日空、
   こくぎかん  まる
夢の國技館の圓屋根こえて

遠く飛ぶ鳥の、夕鳥の影を見れば

なぜか心のなぜか心のみだるる。

 

        
   U  こほろぎ
   お     お       むし
こほろこほろと鳴く蟲の

秋の夜のさびしさよ。
         うれいさえ
日ごろわすれし愁さへ

思い出さるるはかなさに

袋戸棚かきさがし、
   ちり    い
箱の塵はらひ落して、
 さお
棹もついて見たれども、
   わ             え
あはれ思へば、隣の人もきくやらむ、
                  まま 
つたなき音は立てじとて、その儘におく。
        
月はいよいよ冱えわたり
               くわわんぬ
悲みいとど加はんぬ。
 ひる
晝はかくれて夜は鳴く
 こおろぎ            わ
蟋蟀の蟲のあはれさよ、

しばしとぎれてまた低く

こほろこほろと夜もすがら。

 

 

 



   V  雪中の葬列

Djian……born……laarr……don

Djian……born……laar,r,r……

鐘の音がする。雪の降る日。

雪はちらちらと降っては積る。
    
中をまつ黒な一列の人力車。

そのあとに鐘が鳴る……

Djian……born……laar,r,r……

 

銀色とあの寂しい
 うすあか   はす はなびら  
薄紅と、蓮の花瓣……ゆれながら運ばれて行く、
 ほうちょうかご 
放鳥籠の鳥と。
  てっきょう                      とかい   まんなか
今銕橋の上に進んだ。都會の眞中の――

華やかな叫びも欲もさびれた雪の日の都會の――。
             
黒い無言の一列がひつそりと、ひつそりと……

 

鐘の音がする。雪の降る日。

 

雪は降る。雪は降る。

雪は降る。雪は降る。

Djian……born……laarr……don

Djian……born……laar,r,r……

 

 

 

 


   W  市場所見

沖の暗いのに白帆が見える、
       くにみかんぶね
あれは紀の國蜜柑船。
        くれ
蜜柑問屋に歳暮の荷の
 
著く忙しさ――冬の日は
 さんたん     しもぐもる いちば               てら
惨憺として霜曇る市場の屋根を照したり。

 

街の柳もひつそりと枯葉を垂らし、
 よこちょう しもむら
横町の「下村」の店、
 あかのれん
赤暖簾さゆるぎもせず。

 

街角に男は立てり。
   
手を舉げて指を動かし
    なかいち
「七番、中一あり」と呼びたれば
 かぶとちょう 
兜町、現物店の門口に
 でっち                 つたえ
丁稚また「中一あり」と傳へたり。

 

海運橋より眺むれば

雲にかくれし青き日は
      みなぞこ           こえ
陰惨として水底に重く沈みて聲もなし。

時しもあれや蜜柑船、
       まか      ず
橋の下より罷りいづ。

そを見てあれば、すずろにも
                い いず
昔の唄を思ひ出づ。

 

あれは紀の國蜜柑船。

 

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