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投稿「ルポライターの米本和広さんへ」20代医師より
                             2009.08.28

(1)『このサイトでは同病院の医療事故のケースが具体的に書かれています。そうした医療事故も実際は合併症なのに医療事故だと騒ぎ立てている−といったように受け取られかねません。その結果、あの団体は「被害をなくす会」ではなく「病院をなくす会」だと、およそ低レベルなレッテル張りにつながっていく。』

 と思われているようです。たしかに、患者さん側からすると、そう見えるのかもしれません。しかし、実際、医師のサイトなどでは、医師側の意見として、避けられない合併症であろう事項も医療ミスと並列でならんでいるサイトと評価されています。
 患者側からみると医療ミスにみえても、医師側からは避けられなかった、過失はないと不特定多数の医師側に思わるケースもいくつも記載されているということです。医療不信が書かれているとの考えならば納得ですが、掲載事項が、すべて医療ミスとは思えません。

 医療事故が起こらないほうがおかしいような危険な現場を作り出しているのは、国の政治、財務省、厚生労働省です。そちらに文句を言うべきであり、現場に文句をいっても、病院長や議員に文句を言っても、医師の人数配置を増やせるように診療報酬が上がることはありません。

 公立病院の9割は赤字なのです。(全国の公立病院で2008年の経営状況を調査したところ、赤字に陥っている病院が9割超となっていることがわかった。調査は全国公私病院連盟が日本病院会と協力して昨年6月に調査し、2月24日に公表した。)
 現場を責めても、医療は疲労・崩壊に近づくだけで、病院をなくす会と医師のサイトや医師のブログで揶揄されている理由も分かります。

(2)『“合併症”による死亡もありますが、医師の平均以下の技量不足による合併症は、社会通念上からいえば、合併症ではなく医療事故というほうがふさわしいと思います。』

 このご指摘によると、平均以下をすべて罰とすれば、医師の半数は仕事が行えなくなります。このような裁判が続けば、医師はモチベーションが低下し、若い医師は、人命にかかわる科を敬遠するようになるでしょう。

 医療には、禁忌はありますが、医療ミスなのかどうかは、やはり裁判官や素人ではなく、 中立の立場の医療の専門家が中心になって検証するべきです。

 もちろん、研修医だって医師ですので、充分な上の医師の監視の下で医療がなされるべきだと思います。そうやって、医師は一人前になっていきます。ただ、それができない現状もあるほど、医療は医師不足で、多忙です。

 私も、医師になって数ヶ月の時、2,3度ある手技を上司と一緒に行いましたが、4回目ぐらいの時たまたま、上の先生方は外来で、病棟に私一人しかおらず、それでもどうしてもその治療を行わないといけない事態で、一人で行いました。幸い、何事もなく無事終わりましたが、冷汗をかく、心臓が凍る気持ちでした。やはり、経験の浅い医師は、それだけリスクをかかえています。

 若い研修医や新米の医師は、医療事故を起こしたくないと誰もが思うけれど、誰かが起こさないほうがおかしいと思われるぐらい、忙しく危険な現場です。

 例えば、最近、麻酔科で、上司がいくつかの手術を掛け持ちしていて、上司が不在の時に、10ヶ月の経験の医師が医療ミスを起こしたという事故がありました。これは、上司が麻酔をいくつもかけもちしなくては回っていかないような医師の人数・診療報酬となっており、こういう状況は、むしろ多くの病院では普通にある状態なのです。私が麻酔科を回った、初日でさえも上司は麻酔を掛け持ちで、不在でした。

 常に危険と隣り合わせの現場を、なんとか改善するほうが先かと思っています。そのためには、先進国なみに医師を配置できるように、診療報酬・医師の人数をあげるべきだと思います。

(3)『医師の平均以下の』『一つの病院や一つの科目で合併症が多いということは、そこの医師集団のレベルが低いということだ』「医者はプライド高く、レベルは下がる一方。」などとHPにも掲載されていますが、

 K大学病院からの医局派遣が多い清水病院は、K大学の関連病院の中で、医師が最も行きたくない病院の1つと考えられます。働く環境が劣悪だからです。その反対に、静岡のとある病院は、K大学の関連病院の中で、今年の研修医の中で一番人気だったそうです。とても環境がよく、教育的だからと。

 環境が悪いため、提供できる医療のレベル・質が下がってしまうのであり、医師個人のレベルの問題とは違うと思います。

 この問題はどうやって改善するかと考えても非常に難しいところかと思います。患者さんがご不満であれば、行政に働きかけ、現場を改善するしか策はないと思います。

 医師が働きにくい病院から順に、大学がその病院から撤退し、一度、その公立病院を廃止にし、民間病院に売り渡すということは、医療崩壊の今、現に進行しているかと思います。そして、民間病院として再生した後、環境を改善し、医師の給料を1.5倍などにあげれば、 今のK大学医局派遣よりも、優秀な医師が集まるのかとは思います。

 ただ、アメリカなどでは、裕福な人ほど優秀な医師にかかれて、お金のない人はなかなか医療にかかれないシステムとなっています。日本では、どの国民も平等に医師にかかれるということは、すばらしいことだと思います。

 レベルを求めるのは、今の日本の制度では難しいですね。
 医師のレベルが高いほど、診療費が高くなる自費診療を望まれるのか、それとも、国民全員が平等に医師にかかれる制度がいいのか。

(4) 『医療崩壊が言われるほど、医師が大変な状況にあることは少しは知っているつもりです。しかし、いくつかの治療方法、それぞれの治療のメリット、デメリット、考えられる合併症についての説明をする時間くらいは確保すべきでしょう。』

 もちろん、現在のほとんどの病院では、手術や手技を行う場合、インフォームドコンセントが行われ、合併症についてきちんと説明し、納得され、同意書もかかれた上で、治療が行われています。予想できる可能性の高い合併症については、ほとんどの病院で説明していますが、医療では、予測不可能な合併症や、とても確率の低い合併症もあり、また、その原因も、難しいケースなどもあるのが実際です。

 『説明をする時間くらいは確保すべきでしょう』

 もちろん、医師側も、時間があれば、できるだけ詳細に話したいとは思っています。しかし、忙しい時は、夜遅くに1日1食しか食べれず、一日中トイレにも行けないぐらい忙しいこともありますし、重症の患者さんを何人か受け持ちの時は、2日間完全に徹夜だったり、数日お風呂に入れないこともあります。例えば忙しいと家に帰れず数日泊り込みのこともあります。

 『・・・くらい』と患者さんが常識的に思われる時間であっても現実はとても忙しい現場です。睡眠不足で居眠り運転で車は大破し、脊髄損傷となり後遺症が残った先生(学年で主席でした)もいます。

 手術以外などについて、一般的にリスクが低いと考えられる治療に関しては、患者さんのご希望される分だけの時間は、外来はもちろん、入院中であっても、確保できないこともあるのが医療の現状だということを、患者さん側にもご理解いただき、現場を改善しなくてはという気持ちを共有できたらいいのにと思います。

 理想はあっても、例えば外来の医師は他の先進国の4倍の患者さんを診察しているぐらいで、現実的には無理です。

 患者さん側の理想は、忙しい現場ではかなえられないことも多いです。
日本では低負担の医療が行われていますが、患者側のご希望が手厚い医療であれば、負担も高負担の医療にしないと成り立ちません。

 医療は他のサービス業とは違い、診療報酬と医師の人数は低負担低コストとなるように国に管理されています。
 アメリカでは、数十分の優秀な専門医の説明には、数万円かかったりもするぐらいです(高額な保険料を払える人のみ優秀な医師の手厚い医療にかかれるシステムです)。

(5)『このサイトでは同病院の医療事故のケースが具体的に書かれています。そうした医療事故も実際は合併症なのに医療事故だと騒ぎ立てている−といったように受け取られかねません。』

 医療事故には過失がないものも含まれますし、記載されている先生方すべてに過失があったかどうかは不明ではないのでしょうか。新聞報道やマスコミは、そうとは確定していないのに医療ミス(医療過誤)と書きたがる傾向も、危険なことだと思います。

 飛行機や、バスの運転士などは、徹夜で勤務させた、雇い主側に責任があるとされますが、なぜ、医師は徹夜勤務で、事故がおこらないほうがおかしいのに、40度の熱があってふらふらでも心臓の手術でさえ先生方は遅延なく行わなくてはいけないのに、研修医は、まだ未熟で、上司の監督のもとに医療を行いたくてもいつも恵まれた条件で医療を行えるほど暇はなく、一人で経験が少ないのに治療をして事故が起きた場合なども、すべて個人の責任にされてきたのでしょう?そういう体制が問題だと思っています。

 研修医・新米医師の医療事故の個人を責めても、意味がありません。
医療事故が起こりそうな現場を改善するべく、適正な医師の人数配置にするべきです。

 ご指摘ありがとうございました。医師・患者が分かり合えるために、そして、手を取りあって、医療崩壊を防ぎ、医療ミスを防ぐために、議論を続けていかなければと思います。
 尚、米本さんへの反論はこれを最後に会の方より規制されておりますので、反論はできないことをご了解お願いします。



※会事務局注:20代医師さんの投稿文末尾に書かれている「規制」について説明します。
           20代医師さんの投稿に対して、ルポライターの米本和広さんから反論
          寄せられ掲載したところ、20代医師さんから、それに対する反論を希望
          されました。そこで、会事務局として、議論の公平を期すために、お互い
          にあと1回ずつ載せるという約束を了解していただきましたが、そのことを
          「規制」と表現されています。
          (3)の内容を投稿者の要望により修正しました(2009.8.30)。



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