読者の感想
●投稿「20代医師」さんの投稿を読んで。ルポライターの米本和広
2009.08.06
「20代医師」さんの投稿には首を傾げざるをえないところがありましたので、一筆取ることにしました。
主に「医療過誤と合併症」に関することです。
医療行為を行えばときに合併症を起こすことがある。患者はその合併症と医療行為そのもののミスとを混同し、なんでもかんでも医療過誤、医療事故だとする傾向にある。
この見方に一般論としてはまったく異論はありません。
しかしながら、「清水病院から被害をなくす会」のサイトで、そのことが語られると、読者に誤解を招くのではないかと危惧します。
このサイトでは同病院の医療事故のケースが具体的に書かれています。そうした医療事故も実際は合併症なのに医療事故だと騒ぎ立てている−といったように受け取られかねません。その結果、あの団体は「被害をなくす会」ではなく「病院をなくす会」だと、およそ低レベルなレッテル張りにつながっていく。
私はかなり以前からこの病院の問題を取材し、いくつかの医療裁判の資料も読んできました。それによれば、患者の訴えの中に、不可抗力による合併症を医療事故だとするものはありませんでした。“合併症”による死亡もありますが、医師の平均以下の技量不足による合併症は、社会通念上からいえば、合併症ではなく医療事故というほうがふさわしいと思います。
医療事故が多発し、旧清水市の議会で議員が病院側を追及したことがあります。病院側の答弁は「医療行為には合併症はつきものだ」というものだったと記憶しています。そして、数年前の時点のことですが、この病院は“合併症”の割合がとても多かった。ある医師によれば、「一つの病院や一つの科目で合併症が多いということは、そこの医師集団のレベルが低いということだ」と教えてもらったことがあります。
患者が「医療事故」と「合併症」を混同することは大いに戒められるべきだと思いますが、それとは逆に医師側が「医療事故の中にはたんなる合併症も多く、患者は混同している」と主張することは、ほんとうの医療事故を合併症のせいにしてしまう危険性をはらんでいます。
私の郷里に「玉造厚生記念病院」という全国の外科医の間で一目置かれる病院があります。うちの老母が大腿骨頸部を骨折し、この病院で人工骨にする手術を受けることになりました。
主治医、主治医を補佐する日常担当医、担当看護師による術前の説明は実に丁寧でした。人工骨のメリット、デメリットはもとより、考えられる合併症のケース(それぞれの確率)、そしてセカンドオピニオンを希望するのであれば紹介状を書くことなど、私が疑問に思ったことのすべてを質問する前に、説明していただきました。むろん、それは文章化され、あとでいただきました。
このようにきちんとした説明があれば、仮に合併症が生じたとしても、裁判で訴えるようなことはしないはずです。合併症を問題にする患者(患者家族)は、事前に説明を受けていなかった方がほとんどではないでしょうか。
医療崩壊が言われるほど、医師が大変な状況にあることは少しは知っているつもりです。しかし、いくつかの治療方法、それぞれの治療のメリット、デメリット、考えられる合併症についての説明をする時間くらいは確保すべきでしょう。
それをしないから、ときにトラブルになり、医師は貴重な時間をインフォームドコンセントに割く以上に割かれてしまいます。ときに弁護士と打ち合わせをしたり、裁判所で証言しなければならなくなります。ただでさえ忙しいのにさらに忙しくなる。そして医師の不満は募り、居酒屋で患者や患者団体の悪口を言ってクダをまき、家に戻ればネットで不満をぶちまける。
医療崩壊に比例して、ルサンチマン医師が増大しているような印象を強く受けています。
なお、接待のことも書こうと思いましたが、あまりにも一般社会とかけ離れた「さもしさ」が綴られていたので、省略します。
内部告発者が訴えたのは、清水病院の整形外科医たちが目に余るほどの過剰な接待を受けているということだけではなく、「その見返りとして、手術器具の選定、薬品の選定に便宜を図っています」ということにありました。ポイントは後段の賄賂にあります。
「20代医師」さんがお寿司や焼き肉を業者さんから御馳走されようが、誰も目くじらを立てるようなことはしませんよ。だから、心置きなく賞味してください。ただし、慣れっこになって「末廣寿司」(注)に行くようになったら、心に赤信号が灯るようにしてください。
(注)近藤誠医師(慶應病院放射線科医)が一度は行ってみたいと言っていた
超高級寿司店
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