【
全国から届いた声】
2010年夏に誤診を知らされた女性が、2012年8月に提訴しました(訴状)
(関係者住所はサイト掲載省略しました)
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事件番号 平成24年(ワ)第2466号
担当部 第3民事部
訴 状
平成24年8月17日
京都地方裁判所民事部 御中
原告訴訟代理人 弁護士 佐野久美子
同 法常 格
原告 緒方由美
被告 有限会社京都病理研究会
被告 社会福祉法人宇治病院
被告 医療法人財団今井会足立病院
損害賠償請求事件
訴訟費用の価額3320万0000円
貼用印紙額 12万2000円
予納郵券 9,000円
請求の趣旨
1.被告有限会社京都病理研究会及び被告社会福祉法人宇治病院は連帯して原告に対し、金3008万0000円及びこれに対する平成17年9月20日から支払い済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2.被告医療法人財団今井会足立病院は原告に対し、金312万0000円及びこれに対する平成20年2月7日から支払い済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3.訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決及び仮執行の宣言を求める。
請求の原因
1 当事者
(1) 原告は、昭和39年1月24日生れで、平成17年9月19日に、被告社会福祉法人宇治病院(以下「被告宇治病院」と言う。)において、乳房温存・リンパ節廓清手術を受けた女性である。
(2) 被告有限会社京都病理研究会(以下「被告京都病理」と言う。)は、病理検査を目的として昭和60年4月1日に設立された有限会社である。
(3) 被告宇治病院は、多様な福祉サービスを提供することを目的として昭和21年8月31日に設立され、(特別養護・軽費)老人ホームの経営、生活困難者のための低額診療、訪問看護事業、その他多くの事業を行っている社会福祉法人である。
(4) 被告医療法人財団今井会足立病院(以下「被告足立病院」と言う。)は、昭和26年5月28日に医療法人今井会として設立され、平成19年11月9日に現在の医療法人財団今井会足立病院と変更されて今日に至るものであるが、同財団の目的及び事業は、「病院を経営し、科学的でかつ適正な医療を普及することを目的とする」というものであり、被告足立病院の開設する病院としては、
足立病院
第二足立病院
沢井記念乳腺クリニック
がある。
被告足立病院が開設する病院のうち、「沢井記念乳腺クリニック」は、原告の治療に関わった、澤井清司医師(以下「澤井医師」と言う。)が平成22年5月21日に急逝したところから、被告足立病院が澤井医師の開設した「京都ブレストセンター 沢井診療所」の業務を継承したものである。
2 事実の経過
(1) 原告は、平成17年8月頃、入浴中に乳房部のひきつれ、乳腺の腫れに気づき、同年同月25日、被告宇治病院乳腺外科を受診し、蔭山典男医師(以下「蔭山医師」と言う。)の診察を受けた。
蔭山医師は、触診・マンモグラフィー・超音波検査を実施した上で、検査結果についての詳しい説明はしないで、ただ、「マンモを見て、他の先生や技師は大丈夫の範囲やと言うが、私は怪しいと思うので、針生検で白でも黒でも生検に進む。」と言い、同年9月1日に針生検を実施することにした。
(2) 原告は、同年9月1日に、外来受診で針生検を受け、9月6日に、「悪性所見なし」との結果を伝えられたが、蔭山医師は当初の方針のとおり、外科的生検を実施することとし、9月8日に、外来受診で外科的生検が実施され、蔭山医師はその病理検査を被告京都病理に依頼した。
(3) 原告は、9月12日に、蔭山医師から生検の結果「がん」であると告知され、9月19日入院、20日に乳房温存手術をすることが決定され、それまでの間に、骨シンチグラフィー検査、腹部CT検査(9月14日)、胸部CT検査、MR検査(9月16日)を実施することが決められた。
(4) 原告は、計画どおり、9月19日に入院し、翌20日に手術を受けた。
手術の術式は乳房温存術(乳房扇状部分切除術)であり、リンパ節の郭清もされた。
原告は、手術後、蔭山医師から、「手術部位にはがんはなく、生検のための切除部分にのみがんがあり、浸潤がんであった」との説明を受けた。
なお、術後に、被告京都病理の病理検査に付された乳腺の部分切除組織及び所属リンパ組織についての病理組織検査報告書には、「同時に切除された所属リンパ節には上記のごとく転移は認めませんでした。」とあった。
(5) 原告は、手術後の同年10月12日から10月16日までは、被告宇治病院に入院したまま、京都大学医学部付属病院(以下「京大病院」と言う。)に放射線治療のために通院し、18日からは被告宇治病院でホルモン治療を開始した。
(6) 原告は、同年10月23日、被告宇治病院を退院したが、その後も、ホルモン治療のために、被告宇治病院への通院を続けた。
(7) しかし、原告は、被告宇治病院の設備があまり整っていないことに不安を感じて、同年12月2日の受診を最後に被告宇治病院への通院をやめて、京都府立医科大学付属病院(以下「府立医大病院」と言う。)の澤井清司医師によるホルモン治療を受けることとし、同年12月中旬から、同病院でのホルモン治療を開始した。
(8) ところが、澤井医師は府立医大病院を辞職して、平成18年11月1日に、京都ブレストセンター沢井診療所(乳がん専門病院、以下「沢井診療所」と言う。)を開設したので、原告も府立医大病院から沢井診療所に転院して、ホルモン治療を継続し、沢井診療所での治療は、澤井医師が平成22年5月21日に急逝するまで続けられた。
(9) 原告は、沢井診療所での治療を約3年7か月継続したわけであるが、この間の平成20年1月30日に、澤井医師は、手術前の生検時のプレパラートを被告宇治病院から取り寄せて、府立医大病院に病理組織検査を依頼した。同病院の病理診断医小西英一医師は、同年2月7日に結果報告をしたが、検査の結果は、「乳管乳頭腫のような管内の病変がある。ここには一部核異型があるため、局所的な細胞の非定型性をもった乳管内乳頭腫ではないかと思われる。」
というものであり、原告の手術前の病理組織検査(生検)では、原告の左乳腺の腫瘤は良性の腫瘤であるとしか読み取れないものであった。
(10)その結果について、原告は、平成20年3月12日に沢井診療所で澤井医師の診察を受けた際に同医師から口頭で説明を受けた(病理結果を示されたり受け取ったりしていない)が、その内容は、
「非浸潤がんであるが、浸潤がんでも非浸潤がんでも治療の方法は同じである。」
ということであったので、従前の治療を続行し、その治療は澤井医師が死亡するまで続けられた。
(11)澤井医師が平成22年5月21日に死去した。
(12)原告は、澤井医師亡き後の治療を他の医療機関に依頼するためには、沢井診療所の原告に関するカルテが必要であろうと考え、沢井診療所を平成22年5月26日に訪れて同診療所に存在する原告に関するカルテの写しの交付を受けた。
(13) 原告は、澤井医師亡き後の治療を京大病院で受けようと考えて、平成22年6月9日に、同病院乳腺外科竹内医師を受診し、改めて病理検査を依頼した。その理由は、原告のがんについて、宇治病院では「浸潤がん」、沢井診療所では「非浸潤がん」と異なる診断結果が示されていたので、それ以後、治療を受けることになる京大病院で、そのいずれであるのかをはっきりさせたいと考えたからである。
(14) 原告は、平成22年7月7日、京大病院を受診したが、そのときに、竹内医師から、改めての病理検査の結果、原告ががんであると言われた腫瘤は、「乳がんではなくて良性のいぼであった」と伝えられ、さらに、その結論は、5年前にも同じ判定ができたはずであるとも説明された。
すなわち、京大病院では、本件手術前の切除生検時に採取された標本(以下「生検標本」と言う。)及び手術時に採取された標本(以下「手術時標本」と言う。)について病理検査を実施したところ、
生検標本については、「明らかに悪性と判断される異型増殖病変は認められない」こと、また、
手術時標本についても、「組織学的には、高度の通常型乳管過形成、乳頭腫(中枢型・末梢型)、放射状瘢痕が認められる。悪性所見は認められない」こと
が明らかとなって、被告京都病理の実施した原告の本件手術前の生検病理検査及び手術時に切除したいずれの細胞からもがんは検出されなかったことが判明し、被告京都病理の病理検査が誤っていることが判明したわけである。
(15) 京大病院での病理検査結果は、原告にとって、正に驚天動地ともいうべきことであった。すなわち、原告は「乳がん」でもないのに、温存手術とはいえ乳房を切除され、がんが転移しているわけでもないリンパ節を郭清され、本来受けるはずのない放射線治療及びホルモン治療を受けたわけである。健康な身体が傷つけられ、健康な体には害にもなりかねない治療まで受けたのである。
その結果、原告の被った身体的な被害は、以下のとおりである。
@
原告は、本来ならば、傷つけられるはずのない乳房に大きな侵襲を受けたわけであり、女性として本当に辛い思いをしたが、それだけではなく、手術時に細かい神経を傷つけてしまったとしか考えられない、切除箇所の強烈な痛み(針を刺すような痛み)に悩まされているのである。
A
がんが転移しているわけでもないリンパ節を郭清されたために、生涯リンパ浮腫の不安がつきまとうことになり、日常生活において重い荷物を持ったり、左手を傷つけて、細菌が侵入しリンパ浮腫を引き起こしたりしないように、家事や日常生活で制限されることが多く、不自由な生活を強いられているのである。
B
放射線を健康な体に浴びることは、それだけで、身体的に大変なダメージを与えるものであるにもかかわらず、がんであると信じていた原告は何の疑問もなく放射線治療を受けたが、その治療によって原告の浴びた放射線量を考えると、原告が将来どのような身体的な問題をもつのか予想もつかず、その身体的被害及び精神的な苦痛は計り知れないものがある。
C
原告が5年間受けてきたホルモン治療は、非常に辛いものであった。具体的に述べると、腹部から卵巣に対して打っていた注射のために、生理が急激に止められることになり、その結果、ホルモンバランスが乱れ、ホルモン治療をしなくなった今でも、身体は疲れやすく、常に倦怠感に悩まされている状態であり、ホルモン治療の後遺症と言っても過言ではない状態である。
原告は、以上のとおり、身体的にも精神的にも、苦痛を味わい続けているというのが実情である。がんであったのであれば、ともかくも、がんではなかった原告が本来味わう必要のない苦痛を味わい続けているだけではなく、経済的には、長年勤務してきた料亭での調理師の仕事を続けることができなくなり、収入面でも多大な損失を被っているのである。
(16)その後、原告なりに京大病院で示された結果について検討するなどして、原告がその時より5年前に受けた乳がん温存手術は、がんが存在しないにもかかわらず、手術がされたものであると考え、その真偽を確かめるべく被告宇治病院に対する証拠保全を実施し、本訴を提起するに至ったのである。
さらに、沢井診療所で交付されたカルテを検討するうち、平成20年1月30日に、澤井医師が改めて依頼した病理検査の結果も、手術前の生検結果は、原告の腫瘤が乳がんではなかったことを明らかにするものであったことも判明し、澤井医師がその結果を知りながら、乳がん手術後のホルモン治療を続けていたものであると考えるほかないことを知るに至ったのである。
3 診療契約の締結
(1) 2項で述べた経緯からすると、原告と被告宇治病院との間では、平成17年8月25日、次の点を目的とする診療契約が締結された。
「被告宇治病院は、原告の左乳房の乳腺部の腫れのようなものについて、適切な診断をし、その診断に基づいて、適切な治療を施すこと。」
(2) また、原告と沢井診療所こと澤井清司医師との間では、平成17年12月中旬、次の内容の診療契約が締結された。
「澤井医師は、乳がん手術後の原告に対し、適切なホルモンを投与して、乳がんの再発を防ぐこと。」
4 被告の責任
(1) 被告宇治病院の責任
前項(1)で述べたとおり、被告宇治病院には、原告の左乳房の乳腺部の腫れのようなものについて、適切な診断をし、その診断に基づいて、適切な治療を施すべき義務があったというべきところ、同被告の蔭山医師は、触診・マンモグラフィー・超音波検査の結果を総合してみても、直ちに乳がんとの診断をすることは困難であるにもかかわらず、蔭山医師が依頼した被告京都病理からの誤った病理検査結果(本書第2項(14)のとおり)を安易に信用して、原告の左乳房に対する温存術及びリンパ節の郭清(以下、「本件手術」と言う。)を施行した過失があると言わざるを得ず、誤った検査結果を安易に信用して、がん病巣があるわけでもない原告の乳房を切除した蔭山医師には、過失責任があることは明らかで、蔭山医師の使用者である被告宇治病院は、がんでもないのに乳房を切除された原告の被った損害を賠償すべき責任があることは明らかである。
(2) 被告京都病理の責任
被告宇治病院と被告京都病理との間には、病理検査の必要があるときは、被告宇治病院の依頼を受けて、被告京都病理が病理検査を実施することを内容とする契約関係が存在したと言うべきところ、原告の乳がんについて、被告京都病理は、被告宇治病院の依頼を受けて、原告の生検標本及び手術時標本の病理検査を実施したが、平成17年9月8日に実施した生検標本の病理検査の際に誤った検査を行った過失により、被告宇治病院の蔭山医師にがん病巣の存在しない原告の乳房を切除させる結果を招いたものであって、その誤った手術によって、原告の被った損害を賠償すべき責任があると言わざるをえない。
(3) 被告足立病院の責任
@
被告足立病院は、平成22年5月21日に死亡した澤井清司医師が開設した沢井診療所の業務を継承することとし、同年8月1日、沢井診療所を「沢井記念乳腺クリニック」として、被告足立病院の開設する診療所とした。したがって、同被告は、沢井診療所こと澤井清司医師の権利義務を全て継承したというべきである。
A
原告は、被告宇治病院での乳がん手術の後、短期間、同病院でホルモン治療を受けたが、平成17年12月中旬からは府立医大病院で澤井医師によるホルモン治療を受け、澤井医師が沢井診療所を開設した平成18年11月1日以降は、沢井診療所でホルモン治療を継続して受けるようになった。
B
ところで、澤井医師は平成20年1月30日に生検標本について、府立医大病院に改めて病理検査を依頼し、同年2月7日には、その検査結果を得たものであるが、その結果は、「乳管乳頭腫のような管内の病変がある。ここには一部核異型があるため、局所的な細胞の非定型性をもった乳管内乳頭腫ではないかと思われる。」というものであり、この検査結果、すなわち、原告の生検標本の病理組織検査結果は、原告の左乳腺の腫瘤は良性の腫瘤であるとしか読み取れないものであった。
C
それにもかかわらず、澤井医師は、それまでと同じく原告に対してホルモン治療を継続したが、上述の検査結果からすると、ホルモン治療を継続したことは、明らかに、する必要のない治療をしたことになり、違法と言うほかない。澤井医師は、結局、する必要のないホルモン治療を、原告ががんではないことを知った平成20年2月7日から同医師が死亡するまでの平成22年5月21日まで継続したものであって、原告には、澤井医師に対して、ホルモン治療を継続したことによって、被った損害の賠償を求める権利があり、澤井医師は損害を賠償すべき義務があるというべきところ、同医師は死亡したので、沢井診療所こと澤井医師の業務を継承した被告足立病院は、澤井医師が原告に対して負うべき賠償責任を負う義務がある。
5 原告の損害
(1) 被告京都病理及び被告宇治病院に対する請求
@
治療費 ●円
内訳*サイト掲載省略
A
逸失利益
原告は、平成17年9月に、乳がんでもないのに、乳房温存手術によって、乳房を切除され、その後、再発を防ぐための放射線治療やホルモン治療を継続せざるを得なかったために、それまで勤務していた職場での勤務を続けることができなくなり(本訴状第2項(15)参照)、平成18年4月には、退職のやむなき至った。原告はその職場において、いわゆるベテランとして、月額●万円の給与を得ていたが、その後、幾つかの職を得たものの、それだけの給与を得られる職場はなく、手術時に勤務していた職場で得ることのできる収入との間には、差額があるので、その差額分は、本件手術と因果関係のある、原告の逸失利益として、被告らが賠償すべきものである。
内訳*サイト掲載省略
B
慰謝料
がんでもないのに、乳房を切除されたこと、本来、必要ではない放射線治療やホルモン治療を受けてきたことなどに伴う身体的苦痛及びそれらの治療に起因する後遺症による、原告の身体的苦痛及び原告の精神的苦痛(これらの苦痛の状態については、2項の(15)で詳細に述べている。)は、金銭に換算し得るものではないが、本訴においては、●万円を下らないことは明らかであるので、本訴においては、●万円を請求するものである。
C
弁護士費用
上記@、A、Bの合計金額は、●万円であるが、原告は本件を解決するために、弁護士に委任する必要があり、その費用としては、請求額の10パーセントをもって相当とする。
以上のとおりであるので、被告京都病理及び被告宇治病院に対する請求額は、●円となる。
(2) 被告足立病院に対する請求
被告足立病院に対する請求は、澤井医師が、原告ががんではなかったこと を認識した平成20年2月7日以降に発生した諸費用である。
@
治療費 ●円
内訳*サイト掲載省略
A
慰謝料 ●円
原告は、澤井医師を心から信頼し、尊敬の念をもって、受診してきたが、がんではないことを知りながら、素知らぬ顔で、ホルモン治療を継続したことを知り、非常な衝撃を受けたのである。原告のその精神的苦痛は金銭に換算し得るものではないが、●万円を下回るものではないので、本訴においては、●万円の支払いを求める。
B
弁護士費用
上記@、Aの合計金額は●万円であるが、原告は本件を解決するために、弁護士に委任する必要があり、その費用としては、請求額の10パーセントをもって相当であると考える。
以上のとおりであるので、被告足立病院に対する請求額は金●万円となる。
6 まとめ
以上の次第で、原告は被告らに対し、請求の趣旨記載の金員及び被告京都病理及び被告宇治病院については平成17年9月20日(本件手術日)から、被告足立病院については平成20年2月7日(澤井医師が原告ががんではなかったことを知った日)から、それぞれ支払済みにいたるまで、民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求めて、本訴を提起するに及んだ。
以上
添付書類
1 委任状 1通
2 法人登記簿履歴事項証明書 3通
証拠方法
追って提出する。
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☆誤診に関する投稿はこちらへ
http://www.formzu.net/fgen.ex?ID=P35771241
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