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麻酔科医師不足の現状の報告と解決への提案

浅山 健(麻酔科医師)
2005年3月16日

始めに

 私は、常勤麻酔科医師不在を正直に告げる静岡市立清水病院を評価します。 理由は麻酔科医不足という日本の現状を正しく表しているからです。
 患者が麻酔科常勤医を求める理由は、麻酔科が手術を安全に行うための診療科目と認識しているからだと思います。患者は、予定の手術は勿論の事、夜間休日の緊急手術のすべてに対して24時間年中無休で麻酔科が対応する勤務体制を求めています。  

役割分担

 手術における外科医と麻酔科医の分担を説明します。
患者が手術を受ける時、外科と麻酔科が関与します。患者は手術の目的で入院し、麻酔を目的に入院する訳ではありませんが、麻酔科医が患者の全身状態を管理する環境で手術は行われます。
 24時間年中無休で手術室が作用するには、麻酔科が交替勤務である事態は必要です。 しかし常勤医が必ず居る病院は、日本国中探してもありません。 

診療の質を上げる麻酔科の役割

 手術室で悲惨な麻酔事故が起きていることも事実です。
元気な若者が、股関節の脱臼を元に戻す操作の時、胃に残る食べ物が肺に流れ込んで特殊な肺炎が起きた結果、脳に流れる酸素が足りなくなった。 後に障害が残って働けなくなった実例の相談を、私は体験しています。 
 医療事故を専門とするある弁護士は嘆いています。この弁護士は 20年間に110件の医療訴訟を担当して、この内9件が麻酔事故だったそうです。 それらの麻酔事故すべてが、麻酔を専門としない医師が起こした事故とのことです。
 手術・麻酔を受ける患者さんは手術中は意識がないので、麻酔科医師が全力で最善に患者を管理している状況を知りません。また、仮に、麻酔を専門としない技量未熟の医師が全身麻酔を担当して、麻酔に基づく悲惨な麻酔事故を起こしても、病院と担当医師は患者に実情を伝えないので、その状況を知ることができないのが実情です。
 患者は病院の診療科目に麻酔科があれば、麻酔科医師が自分の手術を担当すると思って当たり前です。しかし、麻酔科医が少ない現状では麻酔専門ではない医師が麻酔を担当することもあります。病院の看板に偽りがあるのが日本の現状です。

解決の道順

 手術を受ける患者の全身状態を管理する麻酔医が不足している現状を解決するためには、それぞれの地域で手術に対応できる病院を、「手術拠点病院」として限定することです。そして、「手術拠点病院」は、麻酔科体制を整えることから手術環境を整備していきます。
 この方針に基づく時、麻酔科は重点的に整備され、麻酔科診療の24時間年中無休の体制は当然のこととなって、手術環境の安全性が高まり、手術の質と量が格段に向上するはずです。 手術件数が増えれば、手術に携わる外科医・麻酔科医・看護師の熟練度が増し、質の高い手術となる結果が生まれます。
 この体制を整備するには1.患者、2.病院、3.提供者、4.行政が関係してきます。 先ずは患者自身が自分達が頼りにする病院の手術内容・環境に対して意見し、改善を
求めることが必要です。
 病院は麻酔科を整えることによって外科医が手術に専念出来る体制ができ、結果として手術件数が増えます。 これは手術室設備の稼動率が上がる事を意味するので、経済的に有利な効果が生まれます。
 提供者とは医療費を支払う側を言います。 具体的には支払い基金(保険者)です。基金が、手術環境を整備した「手術拠点病院」に限って手術を行うことを認める仕組みが必要です。
 そして、行政が、患者・病院・基金、この3者を調整する機能を果たすことです。

結論

麻酔科医が不足している現状で安全な手術を行うためには、麻酔科の環境を整備して、外科医と麻酔科医の役割分担が定まっている病院に限って手術を行うことができるようにすることです。そのためには病院を集約して、手術を行うことができる病院を「手術拠点病院」として限定する事が必要です。
 そして、病院の集約・限定を実現させるためには、医療費を支払う側(保険者)と行政がこの方針を認めて、助成する事です。
 現在の医療制度改革の流れから、手術に対応できる病院が24時間365日稼動することに絞って、記しました。

 

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