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資料

日刊ゲンダイ 2011年3月1日(28日発行)18ページ掲載

 やっぱりがんと闘うな! 近藤 誠   7

がん医療の現場で
“犯罪的”な診療行為
         
          手術で摘出した組織にがんがみつから
         なかった、診断根拠となる病理組織標本
         が日本人ではないがん患者だった…

 「がんと診断されても、『がんでないこと』が少なくない」
 前回までの話で、がん診断のこうした実態が少しはおわかりいただけたのではないでしょうか。

 残念なのは、がん医療の現場では、犯罪的な診療行為と疑われるものが見受けられることです。

 乳がんの手術を受けた静岡市在住の竹下勇子さんのケースが代表的事例といえます。

 竹下さんが、「乳がんの名医」としてマスコミに取り上げられたこともある清水市立病院(現・静岡市立清水病院)の某外科医の診察と検査を最初に受けたのは、19911226日のこと。2日後に乳がんと診断され、せきたてられるように手術を勧められ、正月休み明けの1月8日に乳房全摘手術を受けました。がんの早期発見・早期治療の典型的ケースといえるでしょう。

 しかし、手術後まもなく、竹下さんは右腕の機能障害や右半身のしびれなどから、日常生活に重大な支障をきたすようになったのです。

 悩みに悩んだあげく、竹下さんは病院にきちんとした説明と賠償を求めて民事訴訟を起こしました。その裁判の過程で、恐るべき事実が次々と明らかにされたのです。

 最も驚かされたのは、竹下さんの胸の小さなしこりを乳がんと診断した、その根拠となるべき病理組織標本が、日本人ではない乳がん患者のものだった可能性が極めて強いことがわかったことです。

 DNA鑑定で、そのことを指摘した東京医科歯科大学法医学教室の教授もびっくりしたと思います

 ほかにも、おかしなことはいくつもありました。「良性腫瘍、経過観察」とした検査技師の報告が存在したこと、カルテにマンモグラフィーの検査結果が記載されていないこと、手術で摘出された組織にがんが見つからなかったこと、等々、竹下さんが「自分は乳がんではなかった」と確信したのは当然です。

 もろもろの事実を矛盾がないように整理すると、問題の外科医が乳がんではない健康な患者に乳がんと診断し、乳がんの手術を強行していたのではないか、と竹下さんやその周辺の人々が疑ったとしても無理はありません。

 再発・転移が少ない「乳がんの名医」とされたのも、乳がんでない患者を数多く手術していたのであれば当然の話です。

 この外科医は日本乳癌検診学会評議員や日本乳癌学会評議員などを務める傍ら、清水市立病院の副院長に就任。同病院を黒字に転換させた最大の功労者と称えられていました。

 しかし、竹下さんの提訴をきっかけに、他の「疑惑の乳がん手術」も浮上。マスコミや市議会が取り上げるなど社会問題化したため、清水市立病院を退職しました。

 医者には、患者さんの体にメスを入れることが許されています。しかし、それは体に病変が存在し、医療行為として行う場合にのみ限られています。

 事実、健康な女性に「子宮がん」「子宮筋腫」などと診断した富士見産婦人科病院事件(埼玉県所沢市)では、院長が傷害罪を視野に入れた警察の捜査を受け、厚労省の医道審議会から医師免許を剥奪されています。

「病院で、まさかこんながんのひどい手術が行われるわけがない」

 誰しもそう思いたい。しかし、現実はそうではないことを、がん患者とその家族は知っておかねばなりません。=月曜掲載

                         (日刊ゲンダイ 2011年3月1日(28日発行)18面)

 

 

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