竹下裁判
●控訴理由書(1) 〜DNA問題について〜
はじめに
1.本件の原審支倉・佐藤共同鑑定結果
2.原判決の判断とこれに対する反論
3.癌ではないことを示すその他の証拠に対する判断のないこと
4.再度の鑑定の必要
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2 原判決の判断とこれに対する反論
(1) 変異可能性と同一性との関係
原判決は「ABO式血液型遺伝子システムのDNAは一致していること,他方型が異なっていたミトコンドリアDNAは突然変異の可能性を否定できない」として,“変異がありうる”という一事をもって,すべてを説明し終わったかのように結論を導いている。しかしそこには明らかな論理的な飛躍がある。
確かに,癌による変異の可能性そのものは否定できないし,その科学的可能性を控訴人も正面から否定するものではない。
控訴人の原審における書面の中でも,以下のように分析的に主張をしている。
『@ パラフィン切片の1塩基部位がヘテロプラスミーになっていることは、多数ある癌細胞のミトコンドリアDNAの一部が、癌化する過程において突然変異したと考えられる所見である。
A しかし、アンダーソン基準配列とは2部位において異なっていた原告竹下の正常組織の塩基配列が、細胞が癌化し増殖する過程で、すべてホモプラスミー状態にまで突然変異し、しかも、アンダーソンの基準配列とまったく同一の状態に突然変異が生じると考えるのは合理的ではない』
控訴人の主張において明確であるのは,@のヘテロプラスミーの部分については癌による変異もありうることを認めつつ,しかし他の2つの箇所については,変異によるものとして説明することが困難であることを主張したのであって,その点に対する原審裁判所の見解は一切示されなかったということである。
再論すれば,癌による変異ということがありうるとしても,通常ランダムにおきるものであって,今回のように血液(これはもともとの控訴人の正常組織)を分析したものが日本人に特有の塩基の配列を示しているのに対して,パラフィン切片はアンダーソンモデルに一致する塩基の配列を示しているのである。日本人特有の塩基の配列と言われる塩基の部分がアンダーソンモデルに変異をしたということを自然界の出来事として説明することはかえって非科学的であって不自然なことである。
原判決のようにとらえるよりも,血液はまさに控訴人が日本人であるがゆえに日本人に特有の或いは多くの日本人に特徴的な塩基である16,129番=A・16,223番=Tを示したのであって,他方のパラフィン切片の方は,まさに控訴人ではない人物のアンダーソンモデルの塩基配列を持つものの組織であったというに過ぎず,そのように考えるのが最も合理的である。つまり,変異のあった箇所が2箇所とも日本人特有の或いは多くの日本人に特徴的な部位であったのであり,控訴人自身の塩基配列はまさに日本人の特徴的な塩基配列だった。その2つの箇所が同時に突然に変異するとみることは不自然極まりない。かえって,もともとパラフィン切片の組織は日本人ではなくアンダーソンモデルの塩基の配列をもつ別の個体(別人物)の組織であるとみれば,何の不自然もない合理的な説明が可能なのである。
(2) 福井意見書(乙24)の評価
福井意見書が引用する論文は、かえって,原告の主張を補強するものであれ,原告の主張に対する反論にはなりえない。このことは2003年10月9日付けの原告準備書面で論じたとおりであるので,その部分を援用する。
結局,福井意見書に引用されている文献で変異が見られるもののほとんどはモノプラスミーではなく,ヘテロプラスミーであるし,変異の箇所も全くランダムなものであり,まさにそのようなものとして変異をとらえるのが自然であるし,逆に本件の場合はそのようなものとなっていないのである。
(3) 村井意見書(乙25)
原判決は,この乙25も結論に結びつける一つの素材にしているように見える。
しかし,乙25を見れば明らかなようにかかる意見書は,一片の資料も付されておらず,何の客観性も見出せないものである。かかる意見書を無前提に論拠とすることは不合理極まりない。
(4) 原告主張の歪曲
「清水病院における標本作製のシステムからパラフィン包理組織が他人のものと混同されて作製されることは考えられないこと」と判示し,同一性を認定する前提とした。
しかし,かかる原審の判示は,決して控訴人を納得させるものではないことは自明である。
控訴人が問題としているのは,単純な標本作成過程における組織の混同ではない。控訴人が問題としているのは,ミスというレベルの話ではなく,被控訴人小坂の「作為」である。原判決は控訴人が故意による傷害という請求原因を立てたときに,当然控訴人の主張を理解しているはずであるのに,かかるすり替えによって問われている本質をすり抜けようとしたといわざるを得ない。
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