竹下裁判
●控訴理由書(1) 〜DNA問題について〜
はじめに
1.本件の原審支倉・佐藤共同鑑定結果
2.原判決の判断とこれに対する反論
3.癌ではないことを示すその他の証拠に対する判断のないこと
4.再度の鑑定の必要
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3 癌ではないことを示すその他の証拠に対する判断のないこと
原告が癌ではないと主張するにあたって直接の根拠となるものは,まさに鑑定書そのものであったが,そのような判断を間接的に支える状況証拠も存在した。しかし,原判決は,状況証拠に対する判断を一切回避している。このような状況証拠について原判決は応えることができなかったのである。原審において,控訴人竹下がもっとも重視したのは甲41である。そしてそれ以外のいくつかの証拠も甲41と控訴人の主張を間接的に支えるものであった。
(1) 甲41(以下2003年4月14日付原告準備書面と同じ「41号症例」とする)
甲41は被控訴人小坂の下で,控訴人とそれほど違わない時期に,乳がんであるとして手術を受けている患者の症例であるが,この症例は記録上癌ではなかったことが明白なのである。
小坂尋問において被告小坂は基本的にこの点を認めたと言ってよい。
小坂調書A309〜313
「…5年の1月11日のQ+Axと,これは4分の1切除術ということを示しているわけですね。」
「はい,それでよろしいと思います。」
「ここを見ますと,その下のところに,Histology に関しては記載がないと,確認したところ,1月5日に,これは針生検ですか。」
「これは,いわゆる外科的生検でございます。」
「で,no malignancy だったと,悪性ではなかったという話ですね。」
「はい。」
「そうすると,これ,単純に読むと,悪性でなかったにもかかわらず、1月11日に4分の1切除が行われたと,こういうことですね。」
「はい。この文章だけですとね。」
「それと,この最終結論,文書で読んでいくと,結局,病理結果のないままに,更に放射線科に回ったと,こういうことでいいですね。」
「はい」(小坂尋問調書A)
以上のとおり,被告小坂もカルテの記載上は原告が主張するとおりであることを認めざるを得なかった。その後の質問に対して,その意味するところが違っており,被告の準備書面に記載しているとおりであると供述しているが(同調書A-314),医療記録は,客観的に読んで確定される内容のままに理解され認識されるのが当然であり,41号症例の事態の経過をありのままに捉えれば,控訴人=原告の主張するとおりといわざるを得ないのであって,それ以外の解釈の余地はないし,認められない。
被告小坂は,原告以外にも明らかに癌とは確認されていない患者に対して癌であると告げて乳癌手術(41号症例の場合は温存療法)を施行しているのであって,癌であるかどうかにかかわらず「癌」としてしまう被告小坂の「医療行為」の実態が浮かび上がるのである。この症例を,本件と関連性のないものとして度外視することは絶対に許されない。
(2) 甲41のほかにも,甲46は清水市(当時)議会議事録であり,西ヶ谷議員が相談を受けた患者で,実は癌でもなかったのに被告「市立病院において乳がんと言われ,他の病院に行ったら乳がんではない。今,元気に暮らしている」(甲46・4-2左)3人の存在が示されているし,甲64の21頁では,原告が相談を受けたYさんの存在が明らかにされ,さらに,甲73においては,月刊『現代』でジャーナリストの米本氏が,乳がんではなかった人9人(上記の患者を含む)の存在を明確に報告している(同書281頁)。
甲41とこれらを合わせて読むとき,甲41に関する解釈としては,控訴人の主張するとおりとみるのが自然でありかつ合理的であることが理解できるのである。原判決は,これらの書証とまともに向き合ったとき,説明困難であるが故にその証拠評価を回避したとしか言いようがない。 << 前ページへ | 3/4ページ | 次ページへ >>
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