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竹下裁判

『判決の真実』米本和広

はじめに
1.争いのない事実および標準診断
2.判決文の構成にみられる偏頗性
3.証拠採用の偏頗性
4.手術と傷害の関係について
5.「65万分の1」の確率
6.死人に口なし
7.竹下裁判控訴審の意義

 pdf版はこちら

  ※ 一審・静岡地方裁判所判決(2004年3月18日)

2.判決文の構成にみられる偏頗性<注>

 判決の問題点の各論に入る前に、判決文の構成上の問題点について触れておきます。

 通常の判決文の構成は、以下のようになっています。

「主文」
「事実及び理由」
 第一、請求の趣旨
 第二、事案の概要
  1・争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実
  2・争点
   (1)争点@ ア)原告の主張、イ)被告の主張
   (2)争点A ア)原告の主張、イ)被告の主張
   (3)争点B ア)原告の主張、イ)被告の主張
   (4)争点C ア)原告の主張、イ)被告の主張
 第三、当裁判所の判断
   (1)争点@について
   (2)争点Aについて
   (3)争点Bについて
   (4)争点Cについて
   (5)以上の事実から不法行為が成立する(あるいは成立しない)

 判例タイムスなどを見ればわかりますが、だいたいがこのような構成になっています。双方の主張の中でまず「争いのない事実」を特定したうえで、「争いのある事実」について争点整理し、争点ごとに客観的に原告と被告の主張をまとめ、そして最後に裁判官が自由心証形成主義に基づいて判断を指し示す。この構成は、原告被告双方に対して公平であり、理論的にも認識論的にも納得できるものです。

 これに対して、今回の判決文は、以下の通りです。

「主文」
「事実及び理由」
 第一、請求の趣旨
 第二、事案の概要等
 第三、本件の経緯についての裁判所の認定
  1・平成3年12月26日まで
  2・平成3年12月27日
  3・平成3年12月28日から平成4年1月3日まで
  4・平成4年1月4日から同月8日まで
  5・平成4年1月9日から同月31日まで
  6・平成4年2月1日以降
 第四、原告の主張について
 第五、裁判所の判断
 第六、結論

 この判決文の「第二、事案の概要等」では、通常の判決文にある「争いのない事実」は省略されているばかりか、双方の「争点整理」とそれぞれの「主張の整理」は行なわれておらず、いきなり裁判所の認定記述となっています。「第四、原告の主張について」で竹下さんの主張のごく一部を恣意的に取り上げていますが、客観的記述ではなく、ここでも裁判所の解釈・判断を交えて記述しているのです。「第四,原告の主張について」は、正しくは「第四、原告の主張、それに対する当裁判所の判断」とすべきです。

 判決文は、一読すれば実にストーリー性に富んだものになっており、竹下さんの訴えは根拠のないものという印象を受けるはずです。それはその通りで、判決文のほとんどが裁判官の恣意的認定・解釈・判断によって構成されているからです。逆に言えば、この判決文を読んで、竹下さんと市・小坂氏双方の「争いのない事実」「争いのある事実」はなにか、争点に対するそれぞれの主張はなにかを客観的に知ることは困難です。おそらく、法律家でも列挙することは難しいでしょう。それほど偏頗的な構成になっているのです。

<注>偏頗(へんぱ)は控訴理由書に使われている用語です。意味は「上に立つ者の、人の扱いなどがかたよっていて、公正さを欠く様子」。難解な熟語ですが、判決文にはまさに「偏頗」の言葉がふさわしいと思います。

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